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フェンリルのブログⅡ

小説とガーデニングが好きな変人のブログです

すみれ展

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四月一日、二日に静岡県三島市楽寿園の展示場ですみれ展が開催されます。
すみれ展ではすみれの展示(※静岡すみれの会の会員さんの作品です)のほか、すみれの苗の販売も行われます。
私が育てているスミレも何品か出品する予定です(^^)
お近くにお住まいの方は気軽に会場に足を運んでください。

ペラドンナ~第三章~

ーー「先日から行方がわからなくなっている御手洗公子(みたらいきみこ)さんの目撃情報はなく、
引き続き鹿原市警察署は、御手洗公子さんの捜索を続けるとともに、先月同市で起きた斎藤尚記さん失踪事件との関連性
などについても捜査する方針とのことです。
さて、次のニュースです」
テレビ画面に映し出されたニュースキャスターは、まるで退屈な本でも朗読するように
淡々と御手洗公子の失踪事件を伝えた。
御手洗公子の失踪事件は、同じ鹿原市で起きた斎藤尚記の失踪事件ほど大々的には報じられなかった。
老人の失踪事件など特集を組むほど重要な案件ではないと見なされているのか、
あるいは何らかの圧力が報道機関にかけられているのかはわからないが、
少なくとも斎藤尚記失踪事件のときほど報道は過熱しなかった。
喫茶ブラックキャットにいる人間も今回の事件にたいしてはほぼ無関心だった。
そもそも、同年代のサラリーマンの失踪事件にすら興味を持たない人種が、
老人の失踪事件なんかに興味を持つわけもないが。
ブラックキャットにいる人間は、みんなテレビに背を向けそれぞれコーヒーを飲みながら談笑していた。
だが、カウンター席に座る一人の男だけは例外だった。
男は食い入るようにしてテレビ画面をにらめつけたあと、ふと思いついたように
コートのポケットからメモ帳を取り出してそこに記された文字を眺めた。
男はしばらくの間メモ帳とにらめっこしていたが、やがて領収書をつかむと席を立った。
そして、店長に"ごちそうさん"と言ってから勘定を払いブラックキャットをあとにした。
もちろん、ブラックキャットにたむろするのんきな連中のなかにその男に注意を払う者はいなかった。
ただ"一人"をのぞいてはーー



青山がマンションのエレベーターに乗ろうとすると、突然、背後から声をかけられた。
青山が怪訝な表情で振り返ると、そこには一人の男が立っていた。
年齢はだいたい30代ぐらいで、青いダウンのコートに黒のジーンズを身につけていた。
中肉中背で特にこれといった特徴のない顔立ちをしている。
髪は金色のセミロングで目は不自然なほどに虚ろだった。
「あんた、青山さんでしょ?」
男は単刀直入にそう訊ねてきた。
青山は男のほうに向き直り、口元に微笑を浮かべるとこう訊ねた。
「失礼ですが、どちらさまでしょうか?」
男は鋭い目つきで青山を睨みつけると、青山の胸ぐらをつかんでこう言った。
「てめーがやってることはすべてお見通しなんだよ!」
青山は口元に微笑をたたえながらさらに訊ねた。
「私がやってること?
さて………なんのことでしょうか?」
男は怒ったように眉間にシワを寄せるとコートのポケットからバタフライナイフを取り出し、
青山の腹のあたりにつきつけてこう言った。
「とりあえず、このままてめーの部屋まで行くぞ。
詳しいハナシはそのあとだ。
変な真似してみろ?
その場で刺し殺してやるからな!」
「私の部屋まで行けばいいんですね?
わかりました」
青山はそう言うとエレベーターのボタンを押した。
しばらくすると、エレベーターの扉が開き青山は男と一緒にエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターに乗っているあいだ、男は一言も口をきかなかった。
ただ黙って青山の背後にピタリとくっつくようにして立っているだけだ。
もちろん、先端が鋭く尖ったバタフライナイフは青山の腹部のあたりにつきつけられている。
青山はこの男がどこかの組織に雇われた鉄砲玉であると見当をつけていた。
しかし、バタフライナイフを握る手が震えているのと、妙に落ち着きのないソワソワした態度から
この男が"殺し"に慣れていない素人であるということも同時に見抜いた。
青山にとってこの男を"研究所送り"にすることは造作もないことだ。
だが、この男が"青山がやっていること"を知っているとなると大分ハナシは違ってくる。
研究所に送る前に、なるべくならこの男からたくさん情報を聞きだしておいたほうがいいだろう。
「さっき、私がやっていることを全部知ってると言ってましたよね。
それはどこまでですか?」
青山の問いにたいする男の答えは短く簡潔だった。
「ふたつの失踪事件」
"ふたつの失踪事件"
それが、斎藤尚記と御手洗公子の失踪事件のことを指していることに疑いの余地はなかった。
ここ最近起きた失踪事件といえば、このふたつ以外にないのだから。
もっとも、青山が過去に研究所送りにしてきた人間を数えあげたら両手の指では収まりきらない数になるが。
しかし、仮にこの男(とその背後にいる組織)が青山が過去に起こした失踪事件と
今回の失踪事件を結びつけて考えているとしたら、
"ふたつの失踪事件"という言葉はおかしくなる。
やはり、この男のいう"ふたつの失踪事件"とは斎藤尚記と御手洗公子の失踪事件のことを
指していると考えるべきだろう。
「………そうですか。
しかし、なんであなたは警察に届けないんですか?
私がふたつの失踪事件に関与していると考えているなら警察に届ければいいでしょう?」
「警察に届けたら金をむしりとれねえじゃねえか。
そんなこともわからねーのか?」
男は薄荷の匂いのするガムのようなものを噛みながらそう答えた。
多分、それは嘘だと青山は思った。
そもそも、本当に金銭目的ならこんなまわりくどい真似はしない。
証拠品を送りつけてから脅迫電話一本掛ければすむハナシなのだから。
わざわざ人に顔を見られる危険を犯してまでしゃしゃり出てくる必要はないのだ。
では、この男の真の目的はなんなのだろうか。
答えは明白だった。
恐らく、青山から"研究所"の情報を詳しく聞き出したあと、青山を自殺に見せかけて殺すつもりなのだろう。
だから、こんなまわりくどい真似をして青山に接触してきたのだ。
青山はしばしの沈黙を挟んでからこう答えた。
「そうですか…………」
そのあとは、二人とも無言だった。
エレベーターを降り、自宅の前まで移動すると青山はポケットから鍵を取り出した。
男はこのマンションのどこに監視カメラが設置されているかを熟知しているのか、
極力手に持ったバタフライナイフが監視カメラに映らないようつとめているようだった。
青山は鍵を穴に差し込みカチャリとまわした。
青山が扉を開けるより先に、男のほうが扉を開けるとなかば強引に青山を部屋のなかに押し入れた。
そして、リビングまでくると男はソファーにどかっと腰を下ろした。
「いい部屋に住んでるじゃねーか。青山さんよ。
ええ?」
男は青山に向かってそう言った。
しかし、男のその無駄な(迂闊と言っていいほど無駄な)行動が命取りになった。
青山は素早くカバンから拳銃を取り出すと男に突きつけてこう言った。
「人の部屋に勝手にあがりこんでおいてその態度はないんじゃないか?」
青山が突きつけたのは日頃から護身用として携帯していた拳銃である。
どうしようもなくなったときにだけ使えと、仕事始めの日に青山が例の男から渡されたものだ。
弾は三発装填されている。
男は驚いた様子で目を見開くとこう言った。
「拳銃………だと?」
「動くな。
そこから一歩でも動いたら射殺する」
機先を制して青山は男に警告した。
男の唇は小刻みに震えている。
「さあ、聞かせてもらおうか。
君がどこの組織の人間なのかをね」
「ふざけんじゃねぇ!
こんなことしてタダですむと思うんじゃねーぞ!」
言葉だけは威勢はいいが、その声にはどこか怯えのようなものが含まれている。
青山はゆっくりした足取りで男に近づくと、銃口を男の眉間にピタリとつきつけた。
「大声をだすな。撃つぞ」
男は何かいいかけたが言葉にならないようだった。
恐怖で口がワナワナと震えている。
「素直に教えてほしいなぁ。
君はいったい誰に頼まれてどうしてこんなことをしているのかをね。
まあ、教えたくないって言うならそれでも結構。
この場で死ぬだけだ」
青山はそう言うと銃口を男の眉間にめり込ませた。
「くそっ!」
男はそう言うと手に持ったバタフライナイフを青山に投げようとした。
しかし、男がナイフを投げるより一瞬はやく青山はバタフライナイフを男の手からはたきおとしていた。
男の手から落ちたバタフライナイフは、床に当たって一回だけバウンドするとそのまま転がった。
床に転がったバタフライナイフを青山はさらに遠くへ蹴り飛ばした。
バタフライナイフは部屋の隅の方でピタリと止まった。
しかし、青山がバタフライナイフを蹴った瞬間、ほんの数cmだけ拳銃の照準がずれてしまった。
男はその隙をついて青山に殴りかかってきた。
しかし、ただ力任せに叩き込むだけの右ストレートは控えめに言ってもお粗末なシロモノだった。
映画のアクション俳優のほうがもう少しまともなパンチを放てるのではないかと青山は思う。
青山は男の拳を掌で受け止めると、そのまま男の腕を反転させてねじあげた。
「いてててて!」
男は悲鳴にちかい声をあげた。
所詮はただのチンピラである。
この男なら少し締め上げてやれば簡単にボロをだすだろう。
青山は男の腕をねじあげたままこう訊ねた。
「このまま関節ごと君の腕をねじきることだってできるんだよ。
まさに君は絶体絶命というわけさ。
さあ、教えてもらおうか。
君はいったいどこのどいつで、誰に頼まれて僕の命を狙いにきたのかを」
金髪の男はしばらくあがき続けていたが、やがて観念したのかおとなしくなった。
男は絞りだすような声でこう言った。
「………ダチに頼まれたんだよ。
お前を殺してこいって…………な。
気は進まなかったが、金もたくさん持ってるからついでに金もぶんどれるっていうんで引き受けた」
「そうか。
じゃあ、君のお友だちをここに呼んでもらおう」
金髪の男は再び暴れだした。
「………ふざけんな!そんなことできるわけねーだろ!
そんなことしたら俺は殺されちまう!」
青山は自分のケータイを(締め上げてないほうの)男の手に無理矢理持たせるとこう言った。
「呼んでもらおうか」
「だから…………うぎゃっ!」
男の腕が脱臼する不気味な音が部屋中に響きわたった。
「次は本当にねじきるよ?
腕一本なくしたくなけりゃ黙って電話しな」
「うう………」
男はうめき声をあげながら渋々ケータイを指で動かしはじめた。
男がケータイをいじるのを青山は黙って見ていた。
やがて、男はケータイを耳にあてた。
電話のコール音が3、4回ほど鳴り響いたあと、一人の男が電話にでた。
「どうだ………?うまくやったか?」
「しくじっちまった………」
「マジか!」
「場所は………」
男はそこまで言うと、青山の顔を一度だけチラリと見てからこう続けた。
「鹿原市一丁目の13番地にあるマンションの26階。
エレベーターから降りて3番目の部屋だ」
「ごくろうさん」
青山は男の手から無造作にケータイを取りあげると通話を切った。
男は青山を睨み付けると吐き捨てるようにこう言った。
「てめえ………。こんなマネしてあとでどうなるかわかっているんだろうな?
俺に仕事を依頼した人はとんでもねえ大物だぜ。
下手したらこのマンションごと爆破するかもしれん。
そういうことを平気でやる人なんだ、あの人は………」
「へぇ、それはおもしろいねぇ」
青山は口元に微笑を浮かべながらそう言った。
「おもしろい、だと……?」
男は驚いた表情で青山の顔を見る。
「ああ、おもしろいねぇ。
それだけ大規模な爆破事件を起こせば警察も動かないわけにはいかないだろうからな」
男は鼻で笑ってきた。
「てめえ、あの人から逃げられると本気で思っているのか?
あの人はたとえ警察に捕まっても、てめえを八つ裂きにするまで後を追ってくるだろうぜ。
あの人に目をつけられたら最後、死ぬまで生き地獄を味わうことになるんだよ。
どっちにしろお前はもう終わりだ」
「じゃあ、僕が生き残るにはそいつを潰すしかないってことだね」
青山がそう言うと男はバカにしたような顔でこう言った。
「はっ!てめえごときが潰せるわけねーだろ!
あの人のバックには大物政治家や聖女教会の教皇までついてるんだぜ。
なんせあの人は敬虔なサラニストだからな。
返り討ちにあうのがオチだ」
「そうか…………。やっぱり今回の件には聖女教会が絡んでいたか。
ということは、いよいよ全面戦争になるかもしれないな」
「ああっ!?全面戦争だと?
何寝ぼけたこと言ってやがる!
てめえが始末されて終わりだよ。
もっとも、世間的には今回の連続失踪事件の犯人で海外逃亡の末に自殺ってことになるだろうがな」
青山には男の戯れ言など耳にはいらなかった。
「聖女教会か…………。
本当はこんなことやりたくないんだけど仕方ないよな。
いつかはどうにかしなければならない連中だったしな。
弱肉強食・盛者必衰がこの世の常であり本質………。
これも"神"が定めた運命と言えばそうなのかもしれないな。
もっとも、"本物の神"は人間の世界に介入するような野暮なマネはしないだろうけど」
男はさらに何かわめいていたが青山の耳には入らなかった。
青山は微笑を浮かべたまま男に向かってこう告げた。
「君には研究所へきてもらう」

ペラドンナ~第ニ章~

ーー先週から行方がわからなくなっている共栄(きょうえい)都金光(かねみつ)市在住の斎藤尚記(さいとうなおき)さんについて新情報です。
関係者の証言より斎藤さんは同僚と行きつけの居酒屋で別れたあと、
鹿原(かばら)市にあるバー"らびっと"に入店した可能性が高いことが明らかとなりました。
警察は"らびっと"の店員から詳しい事情を聞くとともに、斎藤さんの行方を捜査する方針とのことです」
鹿原駅の駅前にある小さな喫茶店"ブラックキャット"。
ここには一人の店主と一匹の黒猫と数人の客がいた。
店主は40代後半ぐらいの体の大きな男で、緑色の淡いチェックのシャツにオーバーオールを身につけていた。
顔はふっくらとしているが、目尻まで垂れ下がった眉毛とつぶらな瞳が温厚な印象を見る人に与える。
カウンター席のひとつに体を丸めて寝ている猫は、この店の看板猫だった。
ブラックオパールのような黒い体毛に、サファイアのような透き通った青い瞳を持つこの猫は今年で10歳になる。
猫はこの店が開店してから10年間、この店の看板猫として働いているのだ。
店にはこの二人(一人と一匹)のほかに、テーブル席に座って他愛のない世間話をしている40代ぐらいの女性客四人組と、
カウンター席に座った年齢のよくわからない作業服を着た男が一人。
それから、左端のカウンター席に座ってなにやらヒソヒソ話をしているサラリーマンらしき男の二人組がいた。
16インチほどの小さなテレビに映し出された女が真剣な表情で原稿を読み上げるのを尻目に、
そのなかの誰もがあるいはコーヒーを飲み、あるいは読書をし、あるいは他愛のない世間話をしていた。
彼らは、自分たちが今いるこの土地で失踪事件が起きたという事実にたいして
これっぽっちも関心を抱いていないようだった。
だから誰も気づかない。
店内にいる一人の男が16インチほどの小さなテレビを鋭い眼差しで見つめていることにーー



日曜の朝の9時に突然インターフォンのベルが鳴り響いた。
青山がインターフォンのスイッチを押してモニターを見ると、
そこには70歳前後と思われる妙に身なりのいい痩せた老婆の姿が映し出されていた。
青山は怪訝な表情を浮かべながらインターフォンのモニターに映る老婆に向かって尋ねた。
「………はい。どちらさまでしょうか?」
「あら、こんにちは。
わたくし聖女教会牛神派の御手洗(みたらい)と言うものです。
聖女教会牛神派について少しだけお話をさせていただきたいのですがいかがでしょうか?」
聖女教会というのは世界的に有名な偶像崇拝の宗教である。
この世に存在するすべてのものは神の使徒である聖女"サラ"によって産み出された、というのが聖女教会の基本的な理念だ。
聖女教会は数ある宗教団体のなかでも随一の信者数をほこる。
主要国の首脳のほとんどが聖女教会の信者ということもあり、各国への影響力も絶大だ。
もっとも、その聖女教会も一枚岩というわけではなくいくつかの分派に分かれている。
聖女派だとか牛神派だとかそういうのだ。
そのなかでもノン・クリフトを神として崇めているのはカルト宗教色の強い牛神派だ。
牛神派は、聖女教会の異端的存在として百年ほどまえにできたとされる。
彼らによれば近い将来ノン・クリフトの再臨によって世界は終末を迎え、その後、
ノン・クリフトに選ばれた者のみが生き残り、新たにこの地球上にエデンの園を創造するということだった。
強烈な選民思想と強引な勧誘で有名な宗教団体で、あちこちでトラブルを起こしているというハナシをよく耳にする。
青山が知人から聞いたハナシによれば、なんでも彼らの権力構造はピラミッド式になっており、
勧誘をして信者を増やせば増やすほど上位に昇格できる仕組みになっているということだった。
「あっ………!ちょっと今日は用事があるのでそのハナシはまた別の機会にでも」
青山はそう言うとインターフォンのスイッチを切った。
しかし、インターフォンのスイッチを切るのと同時に先ほどの老婆の声が響きわたった。
「ごめんください。
お兄さん、ちょっとだけでいいですからお話を聞いていただけませんか?
すぐすみますから…………ね?」
老婆のわりには意外としっかりした声である。
青山はしぶしぶ玄関へと向かった。
玄関を開けると、そこには白い日除け帽にピンク色のブラウスと白くて丈の長いスカートを履いた老婆が立っていた。
老婆は青山の顔を見ると、パッと明るい表情を見せて会釈してきた。
「あら、こんにちは。
あらためまして、わたくし聖女教会牛神派の会員御手洗というものです」
そう言うと、老婆は青山にまるで使いふるされてシワだらけになったハンカチのような微笑みを投げかけてきた。
「ええ……はい」
「これから用事があるとのことなので、わたくしどもの理念について手短に説明させていただきますね」
「急いでいるのでできれば手短に」
青山がそう言うと老婆は深くうなずいた。
「わかりました。
では、まず簡単な質問をさせていただきます。
あなたはダーウィンの進化論をご存じですか?」
青山はうなずいた。
「あれは真実だと思いますか?」
「うーん……わかりませんね。
真実かもしれないですし真実ではないかもしれません。
そうとしか考えられないところもありますが、実際に猿が人間に進化するところを見たことがあるわけではないのでなんとも言えません」
「あら、まあ!」
老婆はそう言うと目を大きく見開いた。
それから、こんなことを言ってきた。
「あなたは見かけによらずかなり"聡明な"お方なのですね。
わたくし感服いたしましたわ。
あなたのおっしゃるとおりダーウィンの進化論は真実ではないです。
あんなものはデタラメです。
そもそも、知性のない猿なんかがどうして人間に進化することができるのでしょうか?
人間には慈悲心も学習能力もあるけど猿には何もありません。
猿にあるのは本能だけです。
猿は何千年、あるいは何万年経とうが猿のままなのです。
あなたもそう思うでしょう?」
青山は少しだけ間をあけてからわずかにうなずいた。
「では、もうひとつ質問です。
この世界を形づくっているモノはなんでしょうか?」
「この世界って………地球のことですか?」
老婆は深くうなずいてからこう答えた。
「ええ、そうです。母なるこの地球です」
「えーっと……水と鉱石と酸素と二酸化炭素と窒素かな?
あとは、ガスとか放射線とか……」
老婆は神妙にうなずいてからこう言った。
「そのとおりです。
さらに細かく言うとたんぱく質だとかそういう有機質ですね。
そのどれかひとつでも欠落するとこの世界は成り立たなくなるわけです。
偶然にしてはあまりにもできすぎていますよね。
あなたはこれらのものすべてが偶然に産み出されたと思いますか?」
青山はしばらく考えてからこう答えた。
「わかりません」
老婆は満足そうにうなずくとこう言ってきた。
「現代の科学ではこれらのものがすべて偶然の産物だなどと嘘八百を並べ立てていますが、そんなわけはないのです。
すべてはノン・クリフト様が創造なされたのです。
ところで、ノン・クリフト様のことはご存じですよね?」
青山はうなずいた。
「そうです。あのノン・クリフト様です。
偉大なるノン・クリフト様はまず地球を創造なされました。
そして次に神に似せて人類を創造なされたのです。
そう考えればすべての疑問は解決しますよね」
「あの………そろそろ時間が」
青山はポツリとそう呟いた。
すると、老婆は驚いたように目を見開いてこう言った。
「まあ!大変!」
それから、老婆は慌てて肩に掛けた小さなショルダーバッグを開くと中から一冊の小冊子をとりだした。
「とりあえず、これをお読みになっていただければわたくしたちの理念はだいたいご理解いただけるかと」
老婆はそう言うと小冊子を青山に渡してきた。
青山は仕方なくそれを受け取った。
「あっ………どうも………」
「次に訪問するときまでに必ず読んでおいてくださいね。
その冊子を読んでおかないと、これから先のハナシにはついてこれないと思いますから。
それでは失礼します」
老婆はそう言って丁寧に頭をさげると玄関の扉を開け出て行った。
青山は急いでリビングまでいくと、インターフォンのモニターのスイッチをいれた。
モニターには老婆が扉を閉めてエレベーターの方へ向かう姿が映しだされていた。
青山は老婆がモニターから消えるのを確認してからモニターのスイッチをきると、
ホッとしてリビングのソファーに腰をおろした。
さっそく、さきほどの老婆がよこした小冊子をパラパラとめくってみる。
小冊子には、全能の神であるノン・クリフトがどのようにして地球を創造したかや、
ノン・クリフトの起こした様々な奇跡などが詳細に書かれていた。
たった10ページほどの冊子なのに、よくこれだけの内容をつめこんだものだなと青山は感心した。
"(この小冊子の制作者は)もしかしたら広告代理店にでも勤めているのかもしれない"
ふとそんな考えが頭をよぎった。
ありえないハナシではなかった。
やがて、冊子を読むのに飽きると青山は小冊子をテーブルの上に無造作に放り捨ててソファーに背中を預けた。
それから、天井を見つめながら聖女教会について思い巡らせた。
青山は聖女サラにもその息子のノン・クリフトにもどうしても関心を抱けそうもなかった。
そもそも、どうして聖女教会牛神派がノン・クリフトを神などと思えるのか青山にはさっぱり理解できない。
ノン・クリフトなどナルシストでエゴイストな"もっとも人間らしい下等生物"ではないかと青山は思う。
ノン・クリフトのような俗物を神といってしまえば、その瞬間、人間にとって神とはただの俗物の呼称にすぎなくなる。
青山はふと思いついたようにテレビをつけてみた。
チャンネルを報道番組に合わせると、ちょうど鹿原市で行方がわからなくなっている40代の男についての特集が組まれており、
顔を隠した男の同僚らしき人物が涙を浮かべながらインタビューに応じていた。
"(斉藤さんは)よく飲み会の幹事をやったり、冗談を言って職場の雰囲気を和ませたりしてくれてました。
本当にいいヤツでした。
はやく見つかってほしいです"
人前で泣く人間を青山は信用していない。
むしろ、この取材を受けたことでいったいいくらがこのくだらない男に支払われたのだろうかと青山は考えた。
恐らく数十万はわたったに違いない。
それから、異常犯罪心理学者というわけのわからない肩書きのパネリストが
"犯人は愉快犯ではないか。
酔いつぶれている斎藤さんを路上で偶然見つけ、通り魔的にどこかへ連れて行って殺害した可能性が高い"
などと神妙な面持ちでコメントしていた。
それを見た青山は失笑せずにはいられなかった。
"愉快犯?"
"とんでもない"
"これはれっきとした仕事なんだよ"
"新しい世界を創るための"
もっとも、警察は(一般人もだけど)青山が籍を置く例の研究所を永久につきとめることはできないだろう。
なぜなら、あの研究所には有名な大企業の社長だけでなく政界の要人までもが絡んでいるのだから。
もっとも、表向きはある一人の男によって設立されたことになっているが。
その男はユートピアクリエイターというよくわからない肩書をもった男だった。
その男がどこの何者なのか青山は知らない。
ただ、日月(ひげつ)商事の幹部の一人であるということだけは確かな事実だった。
実際に青山が日月商事のサイトにアクセスして調べたのだ。
もっとも、日月商事の幹部リストに名を連ねているというだけで、
サイトにはその男の経歴などはいっさい掲載されていなかったが。
賢い連中は決して目立とうとしない。
どんな小さなほころびであれ、それがいつか自分にとって致命傷になることを知っているからだ。
そんなわけで、青山はその男が日月商事の幹部であるという程度しか知らない。
しかし、あの男の下で働いているだけで月数十万の家賃と生活費とその他の雑多な出費を補うことができ、
なおかつあまった金を貯金するほどの額が手にはいった。
あの男は金を腐るほど持っていた。
それは、たとえ日月商事の幹部だとしても到底持つことのかなわないであろう金額だった。
その金がどこから流れてきているのか青山には知るよしもない。
恐らく、あの男の友人である政財界の要人が莫大な額の金を研究所に投資しているのだろう。
もっとも青山にとってそんなことはどうでもよく、ただ自分と似たような思想をもつ男の下で働きながら
なおかつ贅沢な生活ができるというだけで満足だった。
実際にこれ以上おあつらえむきの仕事があるだろうかと青山は思う。
そもそもあの男と出会うまで青山は、先日の例のサラリーマンと同じような無様な生活を送っていたのだ。
青山はその男に出会った日のことを今でも鮮明に思い出すことができる。
あれは7年前の冬。
とある大国の大統領に黒人が始めて選出されたときのことだった。
「この世界を変えてみないか?」
男はそう言って青山に話しかけてきた。
場所は住宅地の中にある公園だった。
「えっ……?今なんていいました?」
「世界には自由主義という思想がはびこっている。
人々は様々な困難に立ち向かい自由を手にいれた。
その先に希望があると信じて……。
しかし、現実はどうだろう。
人々は豊かさを謳歌する一方で、精神的には何一つ満たされていないのではないかと思う。
欲望というものは留まることを知らずどんどん膨れ上がっていくものだからな。
そこには終わりというものがないのだ。
結局、人間は自由主義という幻想を抱きながら現実は目の前にぶら下げられた
肉の塊を追いかけるただの動物になりさがってしまったのだよ。
今の人間は、人間としての尊厳が著しく損なわれてしまっている状態にある。
そこで私は、人間が人間としての尊厳を取り戻すために新しい世界を創造しようと思っている」
青山は男の顔を見たまま釘付けになってしまった。
と言っても、男の発言があまりにも荒唐無稽だったからではない。
むしろ、男が発言したことと全く同じことを青山も考えていたためだ。
男は青山の目を真っ直ぐ見つめるとこう言った。
「キミもまったく同じことを考えていたのだろう?
違うかね?」
まるで心を見透かされているようで、青山が呆気にとられて何も言えずにいると男はこんなことを言ってきた。
「そんなことはキミの目を見ればわかる。
どうだ?
キミも私と一緒に新たな世界を創造してみないか?」
青山はゆっくりとうなずいてみせたーー
青山はソファーから立ち上がると窓辺へと移動した。
30階建てのマンションの26階。
4LDKの広い部屋で家賃は月ウン十万はする。
ふと先ほどの老婆の演説の一節が脳裏をよぎった。
"偉大なるノン・クリフト様はまず地球を創造なされました"
"そして次に神に似せて人類を創造なされたのです"
青山は、そう説く老婆の真剣な顔を思い出しながら一人でほくそ笑むとこう呟いた。
「新しい世界を創造するのは神でもなければクリフトでもないさ」
それから青山は眼下に広がる都の街並みを見おろした。
「ぼくらだよ」
マンションの26階から眺める都の風景は悪くない眺めだった。


それから、数週間は何事もなく平穏な日々が続いた。
しかし、平穏ということはすなわち何も物事が進展していないということでもある。
もっとも、この前公園で出会ったあのなんとかいうサラリーマンのような人種にとっては、
平穏こそが至高でありなによりも渇望しているものなのだろうが。
青山は今日も鹿原から伊賀野まで夜通し歩いたが、めぼしい獲物は見つからなかった。
サラリーマンの失踪事件がメディアなどで大々的に報じられて以降、
人々は仲間を屠殺された家畜のように神経質になっているようだった。
深夜の遅い時間に酔いつぶれた酔っ払いが一人でふらついているようなことはなかったし、
夜遅くまで残業していた女性会社員が一人で帰宅するということもなかった。
まだ殺されたと確定してるわけではないのに臆病なものだな、と青山は思った。
一人だけチンピラのような人間に出会ったが素材が悪かったので手出しはしなかった。
だれかれ構わず手当たり次第に研究所に送りこめばいいというものでもないのだ。
結局、なんの収穫もないまま伊賀野から鹿原市のマンションまで青山が帰ろうとしたとき
背後から声をかけられた。
「おい、そこのスーツ着たの。
ちょっとハナシを聞かせてもらおうか」
青山が振り返ると、そこには茶色い革のジャケットにジーンズというイデタチの一人の男がいた。
年齢はだいたい40才ぐらいだろうか。
髪を短く刈り上げ、濃くて形のいい眉毛と大きくて迫力のある目を持っていた。
中堅俳優あたりにいそうなハンサムな顔立ちだった。
青山は怪訝な表情でこう尋ねた。
「はい。なんでしょうか?」
男は青山のそばまで近寄ると、ジャケットの胸ポケットから
警察手帳をとりだし、青山につきつけた。
「今ここで何をしていた?」
青山は即座に目の前にいるこの男が私服警官であることを察知した。
男は疑わしげな視線を青山に向けていた。
青山は咳払いするとこう答えた。
「会社からの帰りですよ。どうしてですか?」
「身分証明書を提示してもらおうか」
青山は胸ポケットから運転免許証をとりだすと男にわたした。
男は運転免許証と青山の顔を交互に見ながらこうたずねた。
「ここで何をしていたんだ?」
「会社の帰りですよ」
「こんな遅い時間にか?なんという会社だ?」
「日月(ひげつ)商事の一二三(ひふみ)研究所って言えばおわかりになりますでしょうか?」
青山は男の目を見つめながらそう言った。
男は眉間にシワをよせるとこう訊ねてきた。
「日月商事ってあの?」
「はい、そうです。あの日月商事です。
日月商事は世間体はいいですが内情はぐちゃぐちゃでしてね。
サービス残業なんか日常茶飯事なんですよ。
今日もばっちり20時間仕事をしてきました。
なんなら名刺を見せましょうか?」
男はうなずいた。
青山は胸ポケットから名刺をとりだすと男に見せた。
男は名刺を子細に検分してから青山にかえした。
「そうか…………わかった。
いや、日月商事に一二三研究所なるものが存在するとは知らなかったものでね。
しかし、日月商事とこことでは大分距離があるようだが?」
「日月商事の一二三研究所は伊賀野にあるんですよ。
私の家は鹿原市にあるのでこれから歩いて帰宅するところです。
電車はもう動いてないですからね」
男はしばらく腕を組み何ごとか考えてから再びたずねてきた。
「いつもそんなに遅くなるのか?」
「まあそうですね。何しろ忙しい会社ですから」
「9月18日の夜は何時頃帰宅したんだ?」
男はさりげない風を装いつつ、恐らく一番知りたいであろう質問を投げかけてきた。
青山は表情を変えることなくこう答えた。
「だいたい午前3時~4時ごろですかね。
そういえばあの夜は鹿原市で失踪事件があったんでしたよね?
もしかしたらあの事件の捜査をしているんですか?」
男は青山をジロリとにらみつけるとこう言った。
「そんなことをお前が知る必要はない」
「まあ、確かにそうですね。
知る権利は誰にでもありますけど、いまはどうしても知りたいってわけではありませんし」
青山はしたり顔でそう言った。
もしかしたら、殴られるかもしれないと思ったがそうなったらそうなったでだいぶこちらが有利になる。
しかし、予想に反して男は青山の挑発には乗ってこなかった。
意外と冷静なのかもしれない。
「もう少しだけ詳しい話を聞かせてもらおうか。
9月18日の夜にお前はどこで何をしていたのか?
そして、なぜ帰宅がそんなに遅くなったのかを」
「さっきも言ったとおり残業ですよ。
あの日の夜も仕事がとても忙しかったから帰宅が遅くなったんです。
家について時計をみたら4時すぎててビックリしました。
もっとも、翌日のニュースで鹿原で失踪事件が起きたと聞いたときはもっとビックリしましたけどね。
本当に物騒な世の中ですよね。
私の家の近所で起きた事件だから不安です」
男は一度だけうなずくとさらにこう質問してきた。
「つまり、9月18日の夜は遅くまで残業していて家についたのが午前4時だったというわけだな。
日月商事から家までは真っ直ぐ帰宅したのか?」
「帰宅途中にスターフォーチュンに立ち寄りました。
急に温かい飲み物が飲みたくなったので。
確かあのときは3時半ごろだったかな。
あまりはっきりとは覚えてないですけど」
警察手帳を持った男は眉間にシワを寄せて何事か考え込むと、しばらくしてからこう訊ねてきた。
「おまえがスターフォータュンに立ち寄ったことを証明するものはあるか?」
「スターフォーチュンのレシートなら持ってますよ。
見せましょうか?」
男は黙ってうなずいた。
青山はポケットから財布をとり出すと、雑多な紙束のなかからスターフォーチュンのレシートを抜き出した。
「僕、家計簿とかつけないんでレシートや領収書を一々取っておくんです。
そうすれば一月のうちにどれだけ出費したのか一目でわかりますからね」
男は青山の手からレシートを取りあげると、真剣な眼差しで目をとおした。
やがて、レシートを青山に返すとこう言った。
「なるほど。つまり3時半ごろにはスターフォーチュンにいたわけだな?」
「レシートに書いてあるとおりです。
9月18日の午前3時半ごろ、私はスターフォーチュンでホットキャラメルを飲んでいました」
男は青山をジロリと睨むとこう言った。
「俺はお前の証言を聞いているんだが?」
「それなら先ほど説明したはずですけど」
男は怒気を含んだ口調でこう言った。
「再確認してるところだ。
一応釘を刺しておくが、そんな紙きれなんかいくらでも偽造できるんだからな。
参考にはなるが決定的な証拠にはならん」
「わかりました。
では、もう一度証言させてもらいます。
私は9月18日の午前一時すぎまで働いて、会社を出てからはそのまま帰宅するつもりでしたが、途中で疲れたのでスターフォーチュンに立ち寄りました。
スターフォーチュンにはだいたい30分ぐらいいましたかね。
スターフォーチュンを出たのは3時半を過ぎていたと思います。
そこからは家まで真っ直ぐ帰りました」
警察手帳を胸ポケットにしまいながら男はうなずくとこう言った。
「長いことひきとめて悪かったな。もう帰っていいぞ」
「では、ごきげんよう」
青山はそういい残すとそのまま帰宅した。
帰宅したときに時計を見ると時針は午前3時をさしていた。


例の牛神教の老婆が青山の家にやってきたのは翌週の日曜日の午前10時のことだった。
その日の老婆は、シルクのワンピースの上にピンク色のカーディガンを羽織り
つばの広い白いチューリップ帽を被っていた。
「こんにちは」
老婆はモニター越しにあいさつしてきた。
「こんにちは」
青山は笑顔でそう答えた。
「先日、お訪ねした牛神派の者ですが、小冊子はちゃんと読んでいただけましたでしょうか?」
青山は口もとに微笑を浮かべながらこう答えた。
「ええ、読ませてもらいましたよ」
「では、わたくしたちの理念はだいたいご理解いただけましたね。
今からご入会の手続きの方法等を説明したいのでドアを開けてもらってもよろしいですか?」
「いや、ちょっと待ってください。
確かにあなたたちの理念は理解できました。
ただ、あいにく私には牛神教の理念は到底受け入れがたいものでしてね。
そもそも、ノン・クリフトが神だなんてありえないですよ。
ノン・クリフトは色情魔であり悪魔に魂を売った人間の一人です。
いや、悪魔そのものというべきでしょうか」
青山がそう言った瞬間、モニター越しに映る老婆の表情がさっと強ばるのがみえた。
「あなたはいったい何を言ってらしゃっしゃるの?」
今までの猫をかぶった声はなりを潜め、かわりに年相応の嗄れた声で老婆はそう言った。
「クリフトは悪魔だと言ったんですよ。
実際、あの俗物以上の悪魔がこの世にいますか?
隣人を愛せ?愛によって人間は救われる?
そんなのハッタリです。
そもそも愛があれば争いはなくなりますか?
愛によって人間は本当に救われますか?
愛の重要性を説く聖女教徒が聖女教を世界中に布教した結果どうなりました?
かえって争いの絶えない世の中になったのではないですか?」
老婆は金切り声でこう言った。
「クリフト様は悪魔なんかじゃないです!
聖女教については私にも思うところはあります。
聖女教は聖書を歪曲して間違った教えを広めていますからね。
ですから、真実の伝導者である私たちのような牛神派が誕生したんです。
聖女教の誤った教えをタダスためにです。
そもそも、聖女教の犯した罪がそのままクリフト様の罪になるわけではありません。
あなたが言ってるのはただの暴論よ」
「でも、ノン・クリフトの説く"愛の教え"が聖女教を生んだのは事実ですよ。
そして、大きくなった聖女教が他の宗教を排除するためにあの手この手で殺戮を繰り返してきたのも。
卍軍の遠征なんかその最たる例です。
もちろん、愛を全否定するつもりはないです。
愛というものが人間にとって大事なもののひとつであることは認めます。
ただ愛にはトゲのようなものが含まれていると思うんです。
ほら、よく言うでしょう?
綺麗なバラにはトゲがあるって。
見た目は美しいけど触れるとトゲが刺さる。
愛はまさにそのとおりなんです。
いや、愛はバラよりもっとヒドイです。
愛とはいわば、美しい見かけとは裏腹に猛毒を含んだペラドンナのようなものです」
老婆は睨み付けるような鋭い目つきでモニター越しに青山を見ていた。
その鋭い目つきのなかには激しい憎悪が見てとれる。
"まさにこれだ"と青山は思った。
狂信者は自分の信じるもの以外は絶対に存在してはならないと考える。
それこそが聖女教の説く"愛の教え"のなかに含まれた猛毒なのだ。
「何か反論することはありますか?」
老婆は怒りに身を震わせながらこう言った。
「もう結構でございます。
小冊子を返していただけますか?
あなたにこれ以上クリフト様をケガされたくありませんので」
青山はリビングに移動すると、テーブルのうえに置きっぱなしになっている小冊子を拾い上げた。
それから、玄関まで再び戻ってくると老婆に渡した。
「それではごきげんよう」
青山は会釈をしながらそう言った。
老婆は小冊子をひったくるようにして奪うと、
青山の顔さえろくに見ずにそそくさと玄関の扉を開けて出ていった。
老婆が消えた途端、部屋のなかに静寂がおとずれた。
だがしかし、ここでコトをスンナリ終わらせるつもりは青山にはサラサラなかった。
青山はすばやくインターフォンのそばまで移動すると、モニターのスイッチをいれて外の様子を観察した。
モニターにはエレベーターへ向かう老婆の姿が映し出されていた。
青山は音を立てないようにそっと(しかも小さく)扉を開けると老婆の様子を観察した。
老婆は意外としっかりした足取りでエレベーターの前まで歩いていくと、
そこで立ち止まってエレベーターのボタンを押した。
青山は老婆がエレベーターのボタンを押すところまで確認してからすぐさま扉を閉めた。
そして、扉に背をあずけエレベーターがこの階にきて老婆がエレベーターに乗るところまでを頭のなかに思い描いた。
休日でエレベーターの利用者が多いことを考えると、老婆がエレベーターに乗るまでだいたい5分か10分といったところだろう。
7分経つまで青山は扉に背を預けて腕組みしながら辛抱強く待った。
やがて、7分が経過しそっと扉を開けてもう一度外の様子を窺った。
老婆の姿は既になかった。
エレベーターに乗ったようだ。
青山は扉を開けて外にでると、急いでエレベーターの前まで行き
老婆の乗ったエレベーターがどこで止まるかを確認した。
エレベーターはどんどん下に降りていきやがて1Fで止まった。
青山はすばやくエレベーターの前まで行き、エレベーターを呼ぶボタンを押すとエレベーターの到着を待った。

ペラドンナ~第一章~

※この小説は以前某ブログに掲載したものを再編集したものです。


青山正哉(あおやままさや)は、とある会社に勤務する20代のサラリーマン。
所属する部署は営業課で、成績は悪くなく社内での評判も上々だ。
あと数年もすれば営業課長に昇進することはほぼ確実と言われており、
世間で言うところの"勝ち組"に属する人間である。
そんな青山が、ある日住宅街にある小さな公園のベンチに座って何をするでもなくボーッとしていると、
一人の酔っぱらいが公園に入ってきて青山が座るベンチのそばまでやってきた。
酔っぱらいは30代ぐらいの男で、ワイシャツのボタンを胸元までだらしなくはずしていた。
身長は170cmほど。
顔はとびきりのハンサムでもとてつもなく醜いわけでもなく、体は大きくも小さくもなかった。
典型的な中肉中背の男だ。
飲み過ぎたのか顔は朱色に染まり、ハリネズミのように逆立った髪のため
むき出しとなった額にはうっすらと脂汗がにじんでいた。
男は青山の目の前に立つとこう言った。
「ふう……ちょっと飲みすぎたかな~。
あっ、隣失礼してもいいですか?」
青山は会釈を交えて言った。
「構いませんよ」
酔っ払いは満足そうにうなずくと青山が座るベンチのスペースにドカッと腰を降ろした。
それから、酔っ払いはしばらくのあいだ体をベンチの背もたれにあずけたまま身動きひとつしなかった。
青山が声をかけようかと考えはじめたころ、ようやく酔っ払いは口を開いた。
「いやあ………。それにしても酒ってのはいいもんですね。
嫌なことを全部忘れさせてくれるんですからねぇ。
酒に較べたら世の中のほとんどのものはゴミみたいなもんですよね。本当に。
どっかの偉そうな政治家とか科学者なんかにノーベル賞くれてやるより、
酒を開発した人間にノーベル賞くれてやればいいのになぁ。
実際それぐらい偉大ですよ、酒ってヤツは。
なんてったって酒さえあれば警察も裁判所もいらないんですから」
酔っ払いはそこまで話すと、まるで口笛でも吹くように口をすぼめて息を吐き出した。
ひょっとしたら本当に口笛を吹いたつもりなのかもしれないが、唇から漏れる音は綺麗な音色にはならず
すき間風のようなヒューヒューという渇いた音をだしただけで終わった。
「酒の次にいいのはやっぱり女ですね。あれは本当にいい!」
そう話す酔っ払いの虚ろな視線の先には四階建てのアパートがある。
見掛けはやたら綺麗だが、面積はとてつもなく狭いアパートだった。
恐らく、六畳一間にキッチンとトイレと狭い浴槽がついているといった程度の簡素なものだろう。
住人のほとんどがこの酔っ払いのような独身のサラリーマンにちがいない。
彼らにとって家は寝るためだけにあるのだ。
男はさらに続けてこう言った。
「ただ女は金がかかるし、酒みたいにほしいときにいつでもってわけじゃないからそこんとこは微妙だけど……。
この前なんか誕生日プレゼントに30万ぐらいするやたら高いバッグ買わされたなぁ………。
ったく!月20万しかもらってないってのにやってらんないっすよね!」
酔っ払いはそう言うと深々とため息をついた。
肩を落としてため息をつく酔っ払いの姿は、まるで人生に疲れた四十代のサラリーマンのように見えた。
ひょっとしたら見かけより大分年齢は上かもしれないと青山は思った。
そこで、青山はふとあることを思いつき、左腕に巻いた黒い革の腕時計にチラリと目をやった。
時計の針は午前2時をさしていた。
この公園は住宅街の狭い通りの一画にあるため、この時間になるとほとんど人気がない。
これは、青山が"実際に何度もこの場に足を運んで調査した"ことだからほぼ確実と言えた。
しばしの沈黙を挟んだあと、酔っ払いは青山のほうに顔を向けこうたずねてきた。
「オタクはどう思います…………?
世の中酒さえあれば他に何もいらないと思いませんか?」
酔っ払いの問いかけに、青山は少しだけ考えてからこう答えた。
「そうですか。あなたは酒だけで満足できるんですね。
それはそれで素晴らしい才能だと思いますよ。
朝から晩までロボットのように働いて、帰り道に居酒屋で酒をあおって
何軒かはしごしたあげく、真夜中に家に帰って寝る。
そんな毎日を過ごしながら、合コンだとか同窓会だとかで出会った女と
いつしか恋に落ちて結婚して子供を産むわけだ。
素晴らしいじゃないですか。
そこには憎しみも悲しみもないです。
酒を飲めばすべて忘れられるんですから当然ですよね。
まさに完全無比のロボット人間というわけです。
とても私には真似できないです。」
「あっ、言っておきますけど私はあなたとはちがいますよ。
好きで今の仕事をしていますからね。
待遇面にもまったく不満はありませんし。」
酔っぱらいはぼんやりした表情で青山の顔を眺めた。
青山はさらにこう続けた。
「実際あなたは素晴らしい人間です。
酒を発明した人間?とんでもない。
あなたのような人間にこそノーベル平和賞はふさわしいですよ。
実際、私にノーベル平和賞を授与する権利があったら迷わずあなたにあげたいぐらいです。
世の中あなたのような"よくできた逸材"だらけなら、きっとつまらない争い事とか無くなると思うんですよね。」
青山がそこまで話すと酔っぱらいはみるみる不機嫌な表情になった。
そして、突然青山の胸ぐらを掴むと怒気を強めてこう言った。
「なあ?おまえさっきからオレのことバカにしてんのか?」
やはり、そうだと青山は思った。
この男は恐らく40代かそこそこだろう。
胸ぐらを掴んでいる手に迫力がまるでないのだ。
青山は慌てて首を横に振るとこう答えた。
「とんでもない。バカになんかしてないですよ。
むしろその逆です。
私はあなたのような方を尊敬しているんですよ。」
酔っ払いは何か不思議な生物でも目撃したように目を見開いて口をポカンと開けた。
「実は私、世の中が平和になるためにはどうすればいいかを研究するところで働いていましてね。
でも、なかなか研究がはかどらなくて………。
そこへ、突然あなたのような方が現れてそのおおいなる宿題を解決するためのヒントを与えてくれたんです。
私から言わせてもらえば、いわばあなたは神様のような存在です。
バカにするだなんて滅相もない」
「…………はぁ?」
酔っぱらいはようやく青山の胸ぐらを掴んでいた手を離した。
恐らく予想外の返答がかえってきて混乱しているのだろう。
「あなたはこいつ何言ってるんだろう?と疑問に思っているかもしれないですね。
まあ実際、なんの説明もなく突然こんなハナシを聞かされたら誰だって混乱しちゃいますよね。
少しだけ説明させていただきますが、実は私の勤めている会社はさる特殊な研究所でしてね。
一言で言うと、世界はどうすれば平和になれるかを研究しているところです。
世の中が平和になれば醜い争いごとはなくなりますからね。
それこそ裁判所も警察署も税金も必要なくなるわけです。
まさにユートピアですね。
旧約聖書に則って言えば、人類は再びエデンの園に帰還できるというわけです」
「ちょっとしゃべりすぎたかな………。
もう少し詳しいことを説明したいんですがここでは無理です。
とりあえず私についてきてくれますか?
お時間はそれほどとらせませんので。
ダメですか?」
酔っぱらいは、ベンチに寄りかかりながら既にウトウトしはじめていた。
恐らく、この酔っ払いは青山の話したことの1%も聞いていなかったのだろう。
いや、理解できなかったというべきか。
そのことは青山にとってはむしろ"好都合"といえた。
内容はお世辞にもスマートとは言いがたいが結果が伴いさえすればいいのだ。
「ちょっと失礼しますよ」
青山はそういうと、なかば強引に酔っぱらいの右腕を肩にかけて酔っ払いの体を担ぐようにして抱き起こした。
「あなたは実際すばらしい人間です。
平凡なサラリーマンとして一生を終えるにはもったいない逸材です。
あなたにはもっと最適な就職先があります。
そこに転職すれば勤務時間は今の半分で収入は恐らく今の倍になるでしょう。
そんな高待遇の転職先を無償で紹介してさしあげるんですから文句ないですよね。
ただ、今は大分疲れているようだからぐっすり休んでいてください。
私こう見えてもそれなりにチカラはあるほうなんですよ。
人間一人抱きかかえて歩くことぐらいわけないです。
あなたはただ遊び疲れた子供のようにぐっすりと眠っていればいいんですよ。
あなたが眠っているあいだ、私がちゃんと研究所へ運んであげますからね。」

ギンモクセイ

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今年もキンモクセイが香る季節がやってきましたね。
今年はなんというかあっという間にトキが過ぎ去ったような気がします。
あと3ヶ月で2016年も終わってしまいますが、最後までブログ更新頑張りたいと思います(^^)/


写真は庭に植えてあるギンモクセイの花です。
ギンモクセイはキンモクセイのような橙色の花ではなく、白い花を咲かせるのが特徴です。
香りはキンモクセイとほぼ同じですが、ギンモクセイのほうが優しいまろやかな香りがします(^^)

~追記~
上記の文章は、別のサイトのブログに書いたものをそのまま転載したものです。
基本的にあのサイトのブログに書いたものはすべて私のものなので、これからもたびたび転載すると思います。
たとえば小説とか……。

富士山!

f:id:radioheat225:20161004231353j:plain
f:id:radioheat225:20161004231603j:plain

近所で撮影した富士山の写真です。
上手く貼れてるかな………?

追記
無事に貼れたようでよかったです(^^)
ちなみにこれは今日のお昼時に食堂の駐車場で撮影した富士山ですよ~。